つい先日まで同じ瑞穂のスタジアムでアジア競技大会の陸上があって、あの熱がまだ街のどこかに残っているところに、今度はアジアパラ競技大会がやってくる。陸上競技は、アジアパラ競技大会の中でも「走る・跳ぶ・投げる」という誰にでも伝わる動きだけで、車いすや義足、視覚障がいといった多様な競技スタイルのおもしろさが一気に見えてくる種目だと、私は思っている。この記事では、初めて観る人でも置いていかれないように、会場と日程、クラス分けの考え方、日本代表の顔ぶれまでを、ひとつずつほどいていく。

まずは観戦の前提になる「どこで」「いつ」から確認していこう。ここがわかるだけで、当日の動きがぐっとイメージしやすくなる。
パラ陸上の舞台は、名古屋市瑞穂公園陸上競技場(パロマ瑞穂スタジアム)。アジア競技大会とアジアパラ競技大会の両方のメイン会場で、今年4月にリニューアルオープンしたばかりのスタジアムだ。チケットぴあの大会ページでも、パラ陸上競技の会場は瑞穂公園陸上競技場と案内されている。
大会全体は2026年10月18日(日)から24日(土)までの7日間。実施されるのは18競技で、すべてパラリンピックの実施競技でもある。国際パラリンピック委員会の発表によれば、アジア45の国と地域から3,600〜4,000人ほどの参加が見込まれているという。
陸上競技の日別スケジュールは、これまで何度か更新されてきた経緯がある。私が確認できた範囲では、パラ陸上は10月19日(月)の夕方から23日(金)にかけて開催される予定と案内されていて、20日〜23日は午前と午後・夜のセッションに分かれている、という整理になっていた(日程をまとめた解説記事)。
ただし、日程や時間は変更になることがあるので、出かける前には大会公式サイトや日本パラリンピック委員会の大会ページにある最新のスケジュールを必ず見てほしい。この記事では、種目ごとの決勝の時刻までは断定しないでおく。

パラ陸上を観ていると、プログラムや実況に「T54」「T13」といった記号が出てきて、最初は呪文のように感じるかもしれない。でも、仕組みはとてもシンプルだ。
パラ陸上のクラス分けは、障がいの種類や程度が近い選手同士が公平に競えるようにするための仕組みだ。頭のアルファベットは種目の種類を表していて、Tはトラック種目(走る・跳ぶ)、Fはフィールド種目(投てき)を指す。国際パラリンピック委員会の解説では、跳躍もTに含まれると説明されている。
数字の十の位は障がいの種類を示す。ざっくり言うと、次のようなイメージだ。
一の位は障がいの程度で、知的障がいを除くと、数字が小さいほど障がいが重いというのが基本的な考え方になる(神戸新聞の解説記事)。つまり「T54」なら、トラック種目の車いすクラスで、50番台の中では比較的、体幹や腕の機能が残っているクラス、と読める。
大会によっては、近いクラスの選手がひとつのレースにまとめて出場することもある。その場合は、タイムや記録をそのまま比べるのではなく、順位や換算のルールにしたがって勝敗が決まる。観ているこちらは「いま誰が誰と競っているのか」を、場内の案内や中継の説明で確認しながら楽しむのがいい。
10番台のT11〜T13は、視覚障がいのクラス。たとえばT11のように視力がほとんどない選手は、ガイドランナーと呼ばれる伴走者と一緒に走る。選手とガイドは短いロープをつないで、息を合わせて加速し、コーナーを抜けていく。T13は弱視のクラスで、ガイドなしで走る選手も多い。

クラス分けの基本がわかったところで、今度は実際の競技スタイルに目を向けてみよう。道具や身体の使い方がこれだけ違うのに、同じスタジアムで同じ時間を共有している。そこがパラ陸上のいちばんのおもしろさだと思う。
トラックを走る車いす(レーサー)は、競技用に作られた三輪の専用機だ。選手は腕の力でハンドリムを回して一気に加速し、コーナーでは体を傾けてラインを守る。杭州の大会では、車いす男子400メートル(T52)で上与那原寛和選手が銀メダルを獲得している(琉球新報の報道)。400メートルをひとりで走り切るスピード感は、テレビの画面より会場のほうが、ずっと迫力が伝わるはずだ。
義足クラス(60番台)の見どころは、やはり跳躍種目と短距離。板バネの義足が地面を捉えて、反発力を推進力に変えていく。杭州では、義足の男子走り幅跳び(T64)で又吉康十選手が6メートル35を跳んで銅メダルに輝いた(同じく琉球新報の報道)。助走から踏み切りまでの数歩に、選手それぞれの工夫が詰まっているので、ぜひ注目してみてほしい。
投てきや跳躍のフィールド種目は、トラックと違って時間がゆっくり流れる。一回の試技に集中する選手の呼吸、スタンドの拍手が静まる瞬間、そして記録が出たときの空気の変わり方。スタジアムで観る醍醐味は、そんな場面にも詰まっている。

ここからは、応援の軸になる日本代表の話をしていこう。名前と実績をおさえておくと、レースの見方がぐんと立体的になる。
2023年に開かれた杭州アジアパラ競技大会は、アジアの44の国と地域から約3,000人が参加した大会で、日本選手団は金メダル42個を含む計150個のメダルを獲得した(宮城県の発表)。そのうちパラ陸上競技は、金9個を含む34個のメダルを獲得している(パラサポWEB)。
今大会に向けて、日本パラ陸上競技連盟の鈴木徹強化委員長は「前回大会以上のメダルを目指す」と語っている(パラサポWEBの内定状況まとめ)。日本選手団は全18競技に285選手が出場する予定で(9月28日時点、デイリースポーツ)、陸上はその中でも大きな柱になる。
ここでは、確認できた実績のある選手を中心に、何人かを紹介したい。全員を書き切れないのが残念だけれど、まずは入口として。
福永凌太選手は、400メートル(T13)のパリ2024パラリンピック銀メダリスト。杭州大会はパリへの調整を優先して出場せず、今回がアジアパラ初出場になる。3種目にエントリーしているといい、「今年一番大きな大会」と位置づけていると、マイナビニュースの記事で語っていた。
パラサポWEBの内定状況まとめには、主な選手とパラリンピックでの成績として、唐澤剣也選手(東京銀、パリ銀)や大島健吾選手(東京銅)の名前が並んでいる。唐澤選手は群馬県の代表選手発表にもSUBARU所属のパラ陸上選手として名前が載っている。名古屋市のゆかりの選手紹介では、大島選手が名古屋学院大学AC所属と紹介されている。
日本選手団の旗手のひとりに選ばれたのが、陸上の中川もえ選手。宮崎日日新聞の報道によれば、22歳でクラスはT47、200メートルでT47の日本記録に相当する26秒26をマークしている(Yahoo!ニュース)。結団式では「今までで一番の走りを見せることで、誰かの背中を押すきっかけになれたら」と話した。
最後に、観る側として役に立ちそうなポイントをまとめておく。肩の力を抜いて、でも見逃さないために。
当日あわてないよう、次の点だけでも先に確認しておくと安心だ。
それだけで、スタジアムでの「いま何が起きているのか」が、ずっとわかりやすくなる。
ここまで読んで、まだ気になっていることもあるかもしれない。よく聞かれそうな疑問に、短く答えておく。
名古屋市瑞穂公園陸上競技場(パロマ瑞穂スタジアム)。アジア競技大会とアジアパラ競技大会の両方のメイン会場になっている。
もちろん楽しめる。走る・跳ぶ・投げるという基本はふだんの陸上競技と同じで、クラス分けは「公平に競うための仕組み」と覚えておけば十分だ。細かい換算ルールは、場内の案内や中継の解説に任せてしまって大丈夫。
特別な応援の仕方は必要ない。ほかの競技と同じように、好プレーには拍手を、記録が出たら一緒に喜べばいいと思う。アスリートの技術や戦略に目を向けて観るのが、いちばん自然で、いちばん敬意のある応援ではないだろうか。
ある。競技日程や時間は、これまでも更新が重ねられてきた。出場選手も、日本代表選手団の発表が段階的に行われてきた経緯があるので、最新の情報は大会公式サイトや日本パラリンピック委員会の発表で確かめてほしい。
パラ陸上の魅力は、ひとことで言えば「同じトラックに、いくつもの走り方がある」ことだと思う。車いす、義足、ガイドランナーとの二人三脚。それぞれの技術が磨かれた先に、記録と順位がある。
開幕まであと9日。名古屋で開かれるこの大会は、地元で観られる貴重な機会でもある。仕事帰りに少し足を延ばして、スタジアムの空気を吸いに行くのもいい。レースが始まったら、きっと細かいことは忘れて見入ってしまうはずだ。瑞穂のスタンドで、いい走りを一緒に見届けましょう。