ゆかいな音楽で冬を知らせる灯油屋さんのタンクローリー、ちょっと不穏なメロディとともに町を回るさおだけ屋のトラック。移動販売と呼ばれるこれらの業態は、僕たちの生活に密着した商売だ。
自動車を使った移動販売のなかでも、食事やデザートを提供するものは『キッチンカー』と呼ばれる。
音楽フェスみたいなイベントやスーパーマーケットの敷地内で、クレープやたこ焼きを売ってる車を目にしたことはないだろうか。アレがキッチンカーだ。
丸の内とかいうオシャレな街(ここでいう『丸の内』は名古屋のじゃなくて東京の方ね)では、『春のキッチンカーフェスタ』だとか『ネオ屋台村』といったオシャレなキッチンカー祭りが起きているとかいないとか。
さすが丸の内(もちろん東京の方)、キッチンカーも、キッチンカーで売ってるものもオシャレだ。
丸の内仲通り 春のキッチンカーフェスタ開催♪(2018.03.22) | Ligare‐リガーレ
ネオ屋台村 | ワークストア・トウキョウドゥ
最近、そんなキッチンカーで起業する人が爆発的に増えているらしい。
なぜ、多くの人がキッチンカー開業に乗り出すのか。それは、実店舗を持つよりも資金面・リスク面のメリットが大きいからだ。
固定店舗の飲食店を開業しようと思うと、平均で1000万円ほどの資金が必要だといわれている。それに対してキッチンカーは、車を用意するのに約100万円、ほかいろいろの費用を合わせても200万程度で開業できてしまう。
(※この金額は目安です。新車or中古・車種・設備・商材によって変わります)
初期投資が実店舗よりも大幅に抑えられるのが、キッチンカーで開業する大きなメリットだ。
実店舗は簡単に移転ができないため、立地による影響をモロに受けてしまう。
近くに大きな商業施設ができたりすると、そっちにお客さんを奪われたり人の流れが変わったりして集客が難しくなることがある。道路の拡張工事で立ち退きを余儀なくされたり、貸し店舗の場合は家賃が値上がりしたりといったリスクも考えられる。
その点、キッチンカーは家賃もいらないし(車の維持費はかかるけど、これは「売り上げ好調そうだからもっと出せるだろ、出せよ」つって値上がりすることはまずない)営業を行う場所を柔軟に変えることもできる。この機動力がキッチンカー最大のメリットだ。
キッチンカーといえばこれ!といっても過言ではない鉄板メニュー、クレープ。幅広い世代、特に学生や女性からの人気が高い。
軽食にもおやつにも食事にもなる万能メニュー・たこ焼きも、一年中安定した売り上げが見込める“強い”商材だ。また、たこ焼きやクレープのような粉ものは準備が楽なので、キッチンカー初心者にもおススメ。
ほかにも、フェス飯で定番のからあげや肉巻きおにぎり、おしゃれ女子向けなスープやコーヒー、タコライスやケバブといったエスニック料理も人気のメニューだ。
当たり前だけど、人気のメニューにはライバルも多い。
また、実店舗を持たないキッチンカーは「内装がカワイイ」「なんだか落ち着く」といった“お店の雰囲気”でお客さんを惹きつける戦略がとれない。その分、提供するメニューの質と個性が腕の見せどころになる。
競合との差別化も考えつつ、なんども食べたくなるような味を追求する。キッチンカーの世界で生き残るためには、そんなシビアな戦いを勝ち抜かないといけないわけだ。
食品を取り扱うお店には、施設ひとつにつき必ず1人『食品衛生責任者』を配置する必要がある。この資格は、各自治体が行う『食品衛生責任者講習会』を受講すると取得できる。
名古屋市の場合、講習会は養成講習会と実務講習会の2段階。調理師免許や栄養士などの資格を持っている場合は、実務講習会のみの受講でOK。
講習会のスケジュールや定員は自治体によって異なるので、各自治体に問い合わせて確認しよう。
名古屋市の衛生責任者講習会について詳しくはコチラ:名古屋市 食品衛生責任者とは
キッチンカーに限らず、食品を扱うお店を開くには保健所から営業許可をもらう必要がある。提供するメニューによって必要な営業許可が異なり、モノによっては複数の営業許可が必要な場合もあるのでご注意。
・飲食店営業:食事を提供するお店の営業許可。たこ焼き屋さんはこれ。
・喫茶店営業:飲み物を扱うお店の営業許可。コーヒーショップなんかはこれ。飲み物プラス軽食も出す場合は、飲食店営業の営業許可が必要。
・菓子製造業:お菓子を扱うお店の営業許可。クレープ屋さんはだいたいこれ。地域によっては、メニューがクレープオンリーでも飲食店営業の許可が必要なこともある。
営業許可の基準も保健所によって違ってくるので、営業許可を取るときは必ず管轄の保健所に確認してね。
名古屋市の営業許可について詳しくはコチラ:名古屋市 食品取扱施設 営業許可
キッチンカーで開業するためには、店舗の代わりとなるクルマそのものを手に入れないことには始まらない。
キッチンカー(移動販売車)を入手する主な方法は、「制作を依頼する」「レンタルする」「新車を買う」「中古で買う」の4つ。
予算とも相談しつつ、自分にぴったりの相棒を見つけよう。
自動車である以上、キッチンカーであろうと避けられないのが『車検』だ。
キッチンカーには、シンクやコンロの取り付けといった改造がつきもの。しかし、改造したそのままでは車検には通らない。
じゃあどうするかというと、陸運局(車検をするところ)で『構造等変更検査(通称:構造変更)』という検査を受けて合格する必要がある。
愛知県を管轄する陸運局(愛知運輸支局)についてはコチラ:愛知運輸支局 構造等変更の手続
キッチンカーの車検にあたって、もうひとつ気を付けたいのが分類番号。ナンバープレートに記載された番号のうち、その車がどういう車なのかを示す番号のことだ。
普通車には1~3、小型車には4~7、特殊用途自動車(キッチンカーはここ)には8、大型特殊自動車には9、建設機械には0の分類番号がそれぞれ割り振られている。
分類番号が1や4でも移動販売はできるんだけど、車検の時にちょっとめんどくさいことになる。車内の設備や荷物をいったん全部どけてから車検を受けないと、分類番号と実際の用途が一致していないとみなされて弾かれてしまうのだ。
キッチンカーの車検をスムーズにすませるために、構造変更と8ナンバーの取得は忘れずに。
「開業する」と一口に言っても、書類をそろえたり資格を取ったり、やるべきことが山積みなのはキッチンカーでも実店舗でもそう変わらない。
ややこしい手続きを乗り越えて無事に開業できたあかつきには、売り上げを上げるための戦いの毎日が待っている。
クレープ屋のお姉さんもたこ焼き屋のお兄さんも、そんな激戦の真っただ中にいるんだな…と思うと、キッチンカーのメニューがもっとおいしく感じるかも。
そんなことを考えていたらクレープが食べたくなってきた。
弊社の近くにも、キッチンカーのクレープ屋さん来ないかなあ…。