最近、11種類のスパイスで味付けした鶏肉を特殊な圧力鍋を用いて高温の油で揚げるなどしたものが無性に食べたくなるときが、定期的にある。
たとえばそう、ケンタッキーとか。
鶏を揚げたものなら唐揚げでいいじゃん、と思われる方もいるかもしれない。ごもっともだ。
もちろん唐揚げが食べたいときもある。でもそれとは別に、「フライドチキン」が食べたくなる時っていうのがあるのだ。少なくとも僕には。
えっ?唐揚げとフライドチキンは何が違うんだって?
マジレスすると味付けが違う。しょうが、にんにく、醤油などおなじみの調味料で味付けする唐揚げに対し、バジル、オレガノ、ドライマスタードなどで味付けするフライドチキン。圧倒的に後者のほうがしゃらくさい。
あとは、何と一緒に食べるかだ。唐揚げはご飯。そしてビール。僕の場合は、ご飯のお供にフライドチキンっていうのはやらないかも。フライドチキンの持つパワーがでかいから、主食が要らないというか。あいつにはビスケットっていう相棒もいるし。
唐揚げもフライドチキンも、みんな違ってみんないい。今日はフライドチキンの気分だから、フライドチキンの話をするよ。
フライドチキンといえばケンタッキー、ケンタッキーといえばフライドチキン。そのくらい日本でも大人気のケンタッキー・フライド・チキン(以下ケンタッキー)、その日本第1号店が名古屋にあった…というのをご存じだろうか。
だいたいそういう新しいお店が始まりの地として選ぶのはまず東京、次点で大阪あたりが定石だ。
しかしケンタッキーは違った。最先端オシャレシティ東京でもなければグルメパラダイス大阪でもなく、赤味噌帝国名古屋を選んだのだ。
ケンタッキーが日本に初お目見えしたのは1970年。3月15日から9月13日の日程で行われた大阪万博にて、実験店という形で出店したのがはじまりだった。
この実験店が大成功。ケンタッキーを運営するKFCコーポレーションはこれを喜び、三菱商事と合弁で日本ケンタッキー・フライド・チキン(現・日本KFCホールディングス)を設立、日本への正式出店を決めた。
そしてその年の11月21日、ダイヤモンドシティ・名西ショッピングセンター(現・イオンタウン名西)に日本1号店となるケンタッキー・フライド・チキン名西店が華々しくオープン。開店と同時に大勢の人が押し寄せた。
…と、ここまでは良かったんだけど。
不思議なことに、一人もお店に入ってこない。集まった人たちは、開店祝いのスタンド花を抜き取ると帰って行ってしまうのだ。(※)あっという間に花はなくなり、残ったのは「祝開店 日本ケンタッキー・フライド・チキン様」のプレートだけ。
これを見て焦った店長さん、試食で興味を引く作戦に出た。
するとまた人が集まり始めるも、試食が終わるとまたみんないなくなってしまった。とどめには、赤白しましまの外装を見たご年配の方に「ここは床屋さんですか」と言われる始末。
ケンタッキー・フライド・チキン日本第1号店は、半年で撤退を余儀なくされた。
※開店祝いのスタンド花(生花)を持ち帰るのは名古屋の風習。早くなくなるほどそのお店は繁盛するとされる…はずなんだけどな…
1970年の日本は、国内初のファストフード店が東京にできたばかりだった。ふぁすとふーど?なにそれ?という時代に突然やってきたケンタッキー。それを考えると、こんだけ盛大にコケたのも無理ないか…と思ってしまう。
彗星のごとく現れ、彗星のごとく消えてしまった日本初のケンタッキー。当時の関係者の心中を思うと胸が痛い。
しかし!こんなこともあろうかと、大阪にも2号店(東住吉店)・3号店(枚方店)を用意していたケンタッキー。なんてったって大阪は、かつて実験店で大成功した栄光の地。名古屋のような悲劇は起きまいと思われた。
…んだけど、この二店舗もうまくいかない。神よ。
特に、枚方店は1号店並みの苦戦を強いられるという地獄の展開を見せる。健闘を見せた東住吉店も“悲劇の名西店の再来”となった枚方店も、売上不振による閉店を余儀なくされた。
こうして、半年で1億円もの赤字を叩き出してしまったケンタッキー。
事業撤退目前の背水の陣、最後の望みをかけたのが、神戸三ノ宮にオープンした4号店(トーア・ロード店)。これがなんと大当たり!外国人居留地があり、新しいものに機敏に反応する神戸の土地柄が幸いしたようだ。
ここでなんとか体制の立て直しに成功したケンタッキー。続いて東京への出店も成功させ、悲劇の地名古屋を含む全国に次々と店舗を広げていき、そして今に至る…というわけだ。
「新しいもの好き」ってところは名古屋人にもあると思うんだけど、鶏に関してはやっぱりこだわりみたいなのがあったんだろうか。
名古屋コーチンじゃないと食わん!的な。
紆余曲折の末、今や日本で知らない人はいないほどの人気店に成長したケンタッキー。商品やサービスも日々進化を遂げ、今では「ケンタッキーモーニング」なるものまで登場した。
「ケンタッキーモーニング」は、朝7時から10時半の間、サンドイッチやクロワッサンなどの軽食とドリンクのセットを提供するというサービスだ。
なんとこのモーニングサービス、名古屋には実施店舗がございません。嘘だろ?!
このモーニング大国でモーニングをやらないとは何事なんだ、ちょっと攻めすぎではなかろうか。あえてだとしたら天邪鬼がすぎる。もうちょっと素直になろう?
もしかして、まだ1号店のことが忘れられないんだろうか。きっとそうなんだろうな。「なんで名古屋なんか選んじゃったんだろう、私ってほんとバカ」みたいな。
でも、だからこそケンタッキーには、勇気を出して一歩踏み出してほしい。
きっと今のケンタッキーなら、名古屋ともうまくやっていけるから。
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